東京高等裁判所 昭和38年(ネ)3075号 判決 1964年7月15日
控訴人 柏熊恒 外一名
被控訴人 国
訴訟代理人 横地恒夫 外一名
主文
本件控訴はいずれもこれを棄却する。
控訴費用は、これを五分し、その四を控訴人柏熊の、その一を控訴人金の負担とする。
事 実 <省略>
理由
第一、昭和三八年(ネ)第三、〇九三号同第三、〇七六号、同第三、〇九二号、同第三、〇七五号事件について
(一) 次の事実は当事者間に争がない。
(1) 控訴人(柏熊)が東京高等裁判所昭和三七年(ネ)第二、八九五号司法行政処分取消変更等請求控訴事件について、控訴を提起し、控訴状に一〇円の印紙を貼用してこれを同裁判所に提出したところ、控訴人主張の日に同裁判所第五民事部裁判長小沢文雄裁判官が、右控訴状に訴訟用印紙不足分として一四〇円を貼用すべきことを命ずる旨の補正命令を発したので、控訴人は、これに従い控訴状に一四〇円の印紙を追貼したこと、本件控訴の対象となつた第一審の判決は訴却下の訴訟判決であること。
(2) 控訴人が、東京高等裁判所昭和三七年(ネ)第二、三一五号司法行政処分の取消変更等請求控訴事件について、控訴を提起し、控訴状に印紙一〇円を貼用して、これを同裁判所に提出したところ、控訴人主張の日に同裁判所第五民事部裁判長小沢文雄裁判官が、右控訴状に訴訟用印紙不足分として一四〇円を貼用すべきことを命ずる旨の補正命令を発したので、控訴人はこれに従い控訴状に一四〇円の印紙を追貼したこと、本件控訴の対象となつた第一審の判決は、訴却下の訴訟判決であること、
(3) 控訴人が、東京高等裁判所昭和三七年(ネ)第二、八九四号司法手数料未使用証明書請求控訴事件について、控訴を提起し控訴状に印紙一〇円を貼用したところ、控訴人主張の日に同裁判所第四民事部裁判長谷本仙一郎裁判官が、右控訴状に貼用印紙不足分として一四〇円を貼用すべきことを命ずる旨の補正命令を発したので、控訴人はこれに従い、控訴状に一四〇円の印紙を追貼したこと、本件控訴の対象となつた第一審の判決は、訴却下の訴訟判決であること、
(4) 控訴人が、東京高等裁判所(ネオ)第五六二号損害賠償請求上告事件について、上告を提起し、上告状に印紙四〇円を貼用して提出したところ、同裁判所第七民事部裁判長牧野威夫裁判官が、控訴人主張の日に、上告状に訴訟用印紙不足分として七、九六〇円を貼用すべきことを命ずる旨の補正命令を発し、控訴人が右追貼をしなかつたところ、同裁判長は上告状を却下したこと、右上告の対象となつた第二審判決は、右第七民事部が「本件反訴訴訟は取下により終了した」と言う訴訟判決であること、
(二) 控訴人の本訴各請求は、訴により求めた利益について判断していない判決に対する控訴、上告には民事訴訟用印紙法第五条の適用なく、同法一〇条により一〇円又は二〇円の印紙を貼用すれば足りると言うことを基本としている。
然しながら民事訴訟用印紙法は、訴について、第二条において第一審の訴状に貼用すべき印紙の額を訴訟物の価額に応じて区別をし、第五条において、第二条の基準に従い、控訴状には第一審の訴状に貼用すべき印紙額の一、五倍の額、上告状には二倍の額の印紙を貼用すべき旨を定めておるのみで、訴訟判決に対するものと実体について審理判断したいわゆる本案判決に対するものとを区別していない。
また、控訴人主張の理論によれば、第一審で訴却下の判決があり、これが確定すれば、請求の当否について審理判断がなされなかつたことになるので印紙額の返還が問題になるのであるが、この場合には既に納付された印紙額の返還は求められないと解されている。
したがつて民事訴訟用印紙法第二条に規定されている訴訟物の価額に応ずる印紙額は、この場合にも変更されるわけではない。訴却下の判決に対し控訴する場合、前記のとおり同法に訴訟判決、実体判決と区別していない以上その第一審の訴状に貼用した印紙額を基準として貼用印紙額を定めるのは当然である。訴却下の判決に対して控訴する場合にも一面、その目的は窮極的には訴により求める経済的利益を追求しているものである。このことは、右控訴審において控訴棄却され、これに対して上告する場合にも同一である。
したがつて、民事訴訟用印紙法の規定の上からもまた実質的面からも民事訴訟用印紙法第五条の規定は、訴訟判決に対するもの、実体判決に対するものの区側なく適用されるものと解すべきである。
そうとすれば、控訴状、上告状には、その判決の種類を問わず、第一審の訴状に貼用すべき印紙額の一、五倍並びに二倍の額の印紙を貼用すべきであるから、前認定の各補正命令は適法であり、控訴人主張のような違法はない。
第二、昭和三八年(ネ)第三、一二一号事件について、
(一) 控訴人(金)が、昭和三六年一一月九日東京地方裁判所に、同裁判所昭和三五年(ワ)第六、八七二号家屋明渡及び建物収去土地明渡等請求事件の反訴として、同裁判所昭和三六年(ワ)第八、六七九号損害賠償反訴請求事件を提起し、反訴状に印紙四、四〇〇円を貼用したこと、同裁判所民事第二三部園田裁判官は、控訴人主張の日に、右反訴が併合要件を欠くと言う理由で右反訴を却下したこと、控訴人は、右判決に対し、昭和三七年一一月二七日東京高等裁判所に、同裁判所昭和三七年(ネ)第二、七七二号家屋明渡及び建物収去等控訴事件として控訴を提起したところ、同裁判所第九民事部裁判長鈴木忠一裁判官は、訴訟用印紙六、六〇〇円を貼用することを命ずる旨の補正命令を発したので、控訴人はこれに従い六、六〇〇円を貼用したことは当事者間に争がない。
(二) 控訴人の本訴請求は反訴が併合要件を欠く場合には、これを独立の訴として扱い、弁論を分離して審理すべきに拘らず東京地方裁判所民事第二三部園田治裁判官は違法にも反訴を併合要件を欠くとの理由で却下したと言うことを基本としている。
然しながら、反訴は、訴訟係属中の新訴の提起であり、その併合要件は同時に反訴提起の訴訟要件である。従つてこの要件を欠く反訴は不適法な反訴として判決を以て却下さるべきものである。
然らば右園田治裁判官の却下の裁判は適法であり、控訴人主張のような違法はない。
してみると控訴人等の各本訴請求は、その余の判断をまつまでもなく失当であるから、これと同趣旨にいでた原判決は相当であつて、本件各控訴は理由がないので、これを棄却することとし、控訴費用の負担について民事訴訟法第九五条第八九条第九三条の規定を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 千種達夫 渡辺一雄 岡田辰雄)